素因減額と加重
後遺障害関連のワンポイント知識を伝えていきます。
今回は、もともと病気や並外れて弱いところがあるために事故のダメージが普通よりひどくなった場合、等級はそのまま認定されるのか?
また、障害者が事故でさらに障害を負った場合に、等級はどうなるのか?
そうしたことがテーマです。
「治療費打切りへの対応」はわかったはずなので、後遺障害等級の認定に向けていろいろ研究しましょう。
素因減額
もともと病気や大きな弱点があるために、普通はありえないような被害の拡大が起きる場合があります。
例えば、骨粗しょう症という骨がもろくなる病気があります。
更年期以降の女性によくみられるものです。
被害者は普通の人なら打撲ぐらいで済む転び方をしたが、骨粗しょう症のために両手や大腿骨が折れて何カ月も入院することになったとします。
こういう場合も加害者は猛スピードで衝突して普通の人に同じ被害をもたらした場合と同額の賠償責任を負うべきでしょうか?
それは少し加害者に対して不公平に思えます。
同様のことはほかにもたくさん考えられます。
もともと軽い腰椎ヘルニアがあったところに事故に遭ったために、普通では考えられないほど症状が悪化した場合。
初期の認知症だった被害者が事故に遭って、事故内容からはありえないほどの高次脳機能障害を起こした場合。
こうした場合に加害者にすべての責任を負わせるのは酷ではないか?
自分が加害者になってしまった場合を考えるとそう思うのではないでしょうか。
と言って被害を現実より控えめに記録するのもおかしな話です。
素因減額の計算
そこで、こういう場合に「素因減額」ということが行われる場合があります。
ケガの程度はありのままに認定し、後遺障害が残った場合はありのままに等級認定し、割り引いたりしません。
そして、それに基づいて損害賠償額を計算します。
次に、被害者が普通の人と著しく異なる「素因」(病気や弱点)を持つために被害が普通以上に拡大したので、その分を割り引くべきだと考えます。
例えば、損害賠償額が100万円だが、素因による分が40%と考えて割り引くと、被害者の受取額は60万円になります。
素因減額の問題点
しかし、素因減額をむやみに認めれば、被害者が保護されなくなり、保険会社に不当に有利になりかねません。
例えば、保険会社が「普通の人より首が長いためにむち打ちの被害が拡大した」として素因減額を主張した裁判がありました。
この程度のことで素因減額が認められたら、「手足が長いから折れた」「体が弱いから死んだ」ということで保険金が削られかねません。
上記の主張は幸い却下されましたが、素因減額をなんでも受け入れる必要はありません。
弁護士と相談して、自分の場合は素因減額を主張される可能性があるか検討し、あるなら反論を用意しておけばよいのです。
加重
もともと障害のある方が事故で同一部位を負傷して障害がさらに重くなった時、等級認定や損害賠償額算定はどうなるのでしょう?
例えば、手の薬指が1本ない人が事故でさらに中指を失った場合はどうなるのか?
「親指以外の指2本の欠損障害」の障害等級は9級です。
しかし、1本はもともとないのですから、9級で認定すれば事故被害の過大評価であり、保険会社は不当に損をします。
では、事故でなくしたのは中指だけなので、「人・中・薬指のどれか1本の欠損障害」の障害等級である11級で認定するのでしょうか?
どちらも違います。
正解は「現状は9級で認定して、元の状態である11級分の損害賠償額を差し引く」です。
慰謝料等の受取保険金=9等級相当額-11等級相当額
このルールを「加重」といいます。
加重は事故で歯が欠損した時によく使われます。
事故に遭う前に歯が1本残らず健全で、欠損も補綴もないという人の方が珍しいからです。
加重が適用されるのは同一部位の障害が重くなった時です。
例えば両目を失明した時に、もともと薬指がなかったという理由で11級相当額を差し引かれることはありません。