医師におまかせではダメ
後遺障害関連のワンポイント知識を伝えていきます。
今回は、医師に問題があって等級認定がうまくいかないこともあるという話です。
医師は治療が本来の仕事であって、等級認定を助けることには知識も興味もモチベーションも不足している場合が多いです。
被害者はこの問題を理解し、対策を立てねばなりません。
「治療費打切りへの対応」はわかったはずなので、後遺障害等級の認定に向けていろいろ研究しましょう。
1.知識の欠如
医学部のカリキュラムに交通事故人身損害に関する講座はありません。
自動車保険のしくみ、自賠責のしくみ、損害賠償のしくみ、後遺障害等級の認定基準、各種の裁判例などを正式に勉強する機会はないのです。
そんな基礎知識もないですから、認定を受けやすい診断書の書き方や証拠の揃え方、過去の判例で認められやすい検査の種類といった進んだ知識はさらにないことが多いです。
多くの医師は被害者のために診断書を書いてあげたりといった実務の中で少しずつ学んでいくのです。
そのため、医師の知識の不足のために取れる等級が取れなかったりということも起きます。
例えば、脳の損傷の画像検査ではCTとMRIが信頼性が高いとされ、過去の判例でもよく証拠採用されています。
一方、PET、SPECT、DTIなどは技術的に信頼性が確立されていないとして器質性障害の証拠としては却下されることが多いです。
これを知らずにCT・MRI以外の検査結果を中心に据えた診断書を書けば、証拠は却下され、ほぼ低い等級認定になってしまいます。
また、聴力の検査はオージオメーターという検査機器を用いてデシベル値で結果を示すのが裁判での常識です。
これをせずに診断中に声が聞き取りにくくなっているのを確認してそれを診断書に書いたために難聴が認められなかった例もあります。
そんなアナログな方法でも難聴の発生は確認でき、治療上は役立つかもしれませんが、訴訟の証拠にはならないのです。
2.興味の欠如
交通事故の人身損害賠償は医学的に興味深いテーマではありません。
医学は関係するが、それを法律や制度やお金にどう紐づけるかという実務的な問題です。
知的興味も湧かないし、将来のキャリアにつながるわけでもない。
多くの医師にとっては面倒くさいだけで、興味をもって勉強できる内容ではないのです。
3.モチベーションの欠如
手術を成功させれば、収入が増え、名医の評判が高まり、自分自身への満足感や自信も高まります。
論文を発表すれば、研究者としての名声が高まります。
しかし、交通事故被害者に尽くして、高い等級認定を受けられるようにしてあげても、医師にとって良いことは別にないのです。
被害者の受取保険金が増えても、自分にお金が入ってくるわけではない。
名声が高まるわけでもない。
知的興味が満たされるわけでもない。
等級認定のための意見書や診断書作成は、医師にとってどんな仕事か?
診療や手術で疲れているのに、まだ追加でやらねばならない面倒な事務作業にすぎません。
激務でクタクタの救急医にとっては、本当に苦痛以外のなにものでもないでしょう。
被害者の取るべき対策
このように、医師はたとえ医術の腕は確かでも、交通事故に詳しく意欲もあるとは限りませんから、信じてお任せできる存在ではないのです。
といって、ちゃんとした知識もない被害者があれこれ疑問を投げかけたり、注文を付けたりすれば、うるさがられて逆効果になりかねません。
医師には誠意ある人もいますが、プライドが高くて人を見下している人も多い。
「馬鹿が何を偉そうに医師である私に指図しているんだ?!」
「面倒くさいモンスター患者だ」
そんな風に思われて、余計に手を抜かれてしまいかねません。
効果的な対策は、やはり交通事故に詳しい弁護士を入れて、全体の指揮を執らせることだと思います。
弁護士は医師に匹敵する知的職業の頂点です。
一般人の患者相手なら手を抜けても、弁護士に落ち度を指摘されるのは医者のプライドが許しません。
弁護士が入れば医師も一生懸命やってくれるでしょう。