多くの争点をクリアする必要あり
後遺障害関連のワンポイント知識を伝えていきます。
今回は、等級認定でどんなことが争点になるかという全体像です。
「治療費打切りへの対応」はわかったはずなので、後遺障害等級の認定に向けていろいろ研究しましょう。
等級認定に至るまでの多くの争点
ひたすら症状を訴えていたら認められるだろうとか、レントゲンで異常があったから自動的に高い等級になるだろうとか思っている人。
大きな間違いです。
等級が少し変わると保険金は何百万円~何千万円も変わったりするのです。
認定機関(自賠責損害調査センター調査事務所)は簡単に被害者の肩を持ったりしません。
保険会社も商売なので、納得がいかなかったら裁判で争ってきます。
高い等級認定を受けるためには、多くの争点をクリアする必要があるのです。
等級認定の争点
- 他覚的所見はあるか?
- ある場合、それは事故によるものか?
- 検査は判例で認められている方法か?
- 症状は一貫しているか?
- 所見から症状の医学的説明が可能か?
他覚的所見はあるか?
他覚的所見とは、当人でなくても客観的にわかる異常です。
レントゲンやCTに正常でないものが写っているとか、指が変形しているとか、血液検査で異常値があるとかです。
これに対して当人しかわからないのが自覚症状で、例えば視力検査でもランドルト環視力表検査がその例です。
環の口の開いた位置を答えるおなじみの視力検査ですね。
見えていても嘘を答えて視力が下がったふりをすることは可能です。
本当に見えていないのか、見えていないフリをしているのかは当人しかわかりません。
視力検査にもテラーカード法や視運動性眼振検査などの他覚的検査があり、これを実施すれば本当か嘘かわかります。
さて、こうした他覚的所見があるかどうかは等級認定に大きな影響を及ぼします。
これはいわば「物的証拠」です。
物的証拠もないのに何百万円~何千万円も払わねばならないとなると、保険会社にあまりにも不公平になりかねません。
しかし、中心的な他覚的所見が絶対視されない場合もあります。
高次脳機能障害をめぐる問題
脳の障害ではCT画像とMRI画像という他覚的所見が非常に重視されます。
しかし、脳は非常に複雑でデリケートな器官ですから、損傷個所が特定できないが広い範囲が軽く壊れて異常を起こす場合があることも認められています。
こういうタイプの損傷を「びまん性脳障害」と呼び、画像で十分わからない時は意識障害の状況から脳損傷が推定されます。
つまり、画像という他覚的所見が絶対ではなく、周辺的な他覚的所見から推定する場合もあるわけです。
高次脳機能障害は脳損傷の存在を前提とし、これが認められれば最高1級の高い等級認定を得られます。
一方、脳損傷がなくても精神的な弱さやよくわからない原因で神経的な異常が起きることは知られています。
この場合は、非器質性精神障害とされ、最高で9級、普通は12級まで、ほとんどは最低の14級で認定されます。
「びまん性脳損傷による高次脳機能障害」なのか、「非器質性精神障害」なのか?
実はこの2つの境目はそんなに明瞭ではありません。
どちらで認定されるかによって、被害者か保険会社のどちらかが大損します。
だからどちらか判断が微妙なケースでは法廷で激しく争われることになります。
他覚的所見がある場合、それは事故によるものか?
例えば、レントゲンで頸椎ヘルニアが確認されたとします。
他覚的所見があるから等級が取れるはずと思うなら、それは考えが甘いです。
頸椎ヘルニアは事故になる前から発生していて、遅かれ早かれ症状は出ていただろう可能性もあります。
事故はせいぜい症状が出るきっかけになっただけかもしれません。
あるいは、事故直後にはヘルニアはなくて、最近になって加齢などが原因で発生した可能性もあります。
このように他覚的所見があったとしても、それが事故が原因で発生したと証明することが求められるのです。
検査は判例で認められている方法か?
他覚的所見があっても、検査の種類が問題になることがあります。
例えば、脳損傷の画像所見ではCTとMRIが過去の判例で信頼性の高い検査方法として認められています。
PET、SPECT、DTIなどは技術的に信頼性が確立されていないとして器質性障害の証拠としては却下されることが多いのです。
しかし、医師によってはPETの信頼性を高く評価する人もいるでしょう。
あるいはCTやMRIはよく知っているので、経験を広げるためにあえて使ったことがないDTIを使おうとする場合も考えられます。
そして、PET、SPECT、DTIなどを根拠とした診断書を書くかもしれません。
この場合、医師の用意した証拠が悪いために、被害者はどんなに症状がひどくても、9等級どまりの非器質性精神障害しか認定されない可能性があるのです。
症状は一貫しているか?
症状の一貫性も重要な判断材料とされます。
いったん症状が消えて、時間が経ってまた発症するということがあります。
これは事故による損傷という同一原因かもしれません。
しかし、事故が原因の症状は完治して、別の原因で症状が出てきた可能性もあります。
その場合には保険会社に責任はないことになります。
症状に一貫性がない場合、現在の症状の原因は本当に事故なのかが大きな争点となります。
治療の中断が長いと、症状はいったん治まっていた証拠とされやすい。
だから、トップページで述べたように、治療費を打ち切られても、症状があるなら治療を中断してはいけないのです。
所見から症状の医学的説明が可能か?
CTで頚髄が圧迫されている画像所見が得られたとします。
そしてこれが事故で発生したのは間違いないと判断されたとしましょう。
被害者は事故後から一貫して右手のしびれを訴えているとしましょう。
もうこれなら認定は大丈夫と思いますか?
いいえ、まだです。
圧迫が起きているのが頚髄の右側なら、症状は左手に出るはずです。
だから右手のしびれは頚髄圧迫の画像所見とは関係ないと判断されます。
いくら他覚的所見があっても、それで症状が医学の見地から合理的に説明できなければダメなのです。
まとめ
このように、高い等級認定を得るには多くの争点をクリアせねばなりません。
医学と法律と保険の知識を駆使した頭脳戦が求められます。
保険会社のバックには百選練磨の顧問弁護士がいっぱいついています。
もめた時には到底素人の手に負えません。
交通事故に強い弁護士の力を借りることをお勧めします。