12級、14級、非該当がメイン
後遺障害関連のワンポイント知識を伝えていきます。
今回のテーマは、件数の多いむち打ち症の等級認定です。
「治療費打切りへの対応」はわかったはずなので、後遺障害等級の認定に向けていろいろ研究しましょう。
むち打ち症で取れる等級
むち打ち症での等級認定は、おおむね12級どまりで14級が多く、非該当(後遺障害なし)とされることも多いです。
等級 |
障害の程度 |
慰謝料(自賠責基準―弁護士基準) |
労働能力喪失率 |
---|---|---|---|
12級 |
局部に頑固な神経症状を残すもの |
93万円-180万円 |
20/100 |
14級 |
局部に神経症状を残すもの |
32万円-110万円 |
9/100 |
非該当と等級ありの差はとても大きいので、本当に症状がひどいなら認定してもらえるよう、しっかり対策を打ちましょう。
治療費を打ち切られて治療を中断してしまうのは非該当にされる大きな材料です。
治療を中断できたのは症状が軽くなったため。だからその後に出てきた症状は事故が原因かどうかわからない。
よって非該当、つまり後遺障害等級はなし・・・・という風に判断されるのです。
14級と12級の間にもお金にして2倍は差があります。
もっと高い等級の認定例
むちうちは最高は7級、9級の認定例もありますが、極めて例外的です。
7級といえば目の障害の場合は「1眼を失明し、他眼の視力も0.6以下」、手指の障害で言うと「親指以外の4本の指を欠損」です。
むち打ちでそれらに匹敵するほどの深刻な症状というのはなかなか考えにくい。
そういう判決が出たこともあるというだけで、また狙えるものではないと思います。
12級と14級の認定基準の違い
「頑固な」という形容詞がついた神経症状とついていない神経症状の違いが不明瞭で、このままでは実務的に役に立ちません。
実務的な解釈は次のようになっています。
等級 |
等級表上の定義 |
実務的な解釈 |
---|---|---|
12級 |
局部に頑固な神経症状を残すもの | やや重度で他覚的所見による医学的証明が示せるもの |
14級 |
局部に神経症状を残すもの | 12級より軽度で、医学的に説明可能で自覚症状の誇張ではないと判断できるもの |
12級は他覚的所見があるのが前提と考えてください。
その代表はCTやMRIの画像で頚髄圧迫、ヘルニア等の異変が確認できることです。
他覚的所見がなくても症状さえ訴えていれば14級なら通るだろうと思うなら、それは甘いです。
症状に一貫性がなかったり、医学的に説明がつかないような症状を訴えて非該当となる事例がたくさん発生しています。
認定基準に対する保険会社と被害者の温度差
実は上の基準でもまだ定義は十分明瞭でなく、保険会社と被害者(弁護士)では捉え方に差があります。
保険会社は基本的に14級でも何かしらの他覚的所見があるのが当然で、ないなら非該当であるべきだと考えています。
被害者側はちょっと重かったら12級、ダメ元で12級狙って14級が取れたらよし、というようなところがあります。
また、他覚的所見と自覚症状の境界は実はそんなにはっきりしていません。
CTやMRIの画像は誤魔化しようのない他覚的所見ですが、患者や医師の主観が混じる検査もあります。
例えば、むち打ちではジャクソンテストやスパーリングテストという検査が使われます。
首をある方向に曲げて手足の痛みを確認するテストですが、患者は嘘をつくことが可能です。
医師を騙しとおせる整合性のある嘘をいうのは難しいですが、医師の中にも経験の浅い人や追及の甘い人はいるでしょう。
可動域制限検査という関節がどれぐらい動かなくなっているか調べる検査では、医師が患者に痛みをどこまで我慢させるかで検査結果が変わります。
こういう完全に他覚的でない検査について、当然ながら保険会社は厳し目に見ますし、被害者は甘めに解釈します。
事例に学ぶむち打ち認定成功法
バイクに追突されたカメラマンの例(平成22年 横浜地裁)
むち打ちに加えて抑うつ、意欲低下、不眠、記憶力低下といった症状を訴えて9級を主張。
9級というと手指の障害なら、親指欠損か親指以外の指2本欠損です。
しかし、車のボディの主要部には何の変形も発生しておらず、衝突のショックは軽かったと推定されます。
そんな軽い衝撃で脳損傷による高次脳機能障害みたいなひどい症状が出るのは医学的に説明がつかない。
ジャクソンテスト、スパーリングテストは陰性で、MRIは閉所恐怖症を理由に拒否したため、他覚的所見はなしです。
結果は9級はもちろん、14級さえ取れず、非該当でした。
この人に主張が本当だったのか誇張だったのかは知りません。
しかし、他覚的所見もなしに医学的にありえない重篤な症状を主張し、高めの等級を狙えば悪くても14級は認定されるだろう、みたいな事をしても通らないということです。
事故2か月後のゴルフがバレて非該当(平成22年 大阪地裁)
センターラインを越えてきた車に衝突されて、頸部と肩の痛みを訴え、自賠責では14級が認定されます。
しかし2か月後にゴルフコンペに参加して18ホールラウンドしたのがバレて、裁判所は自賠責の認定を否定して非該当としました。
この裁判がどういう経緯で提訴されたのかは載っていませんでした。
しかし、おそらく不振に思った保険会社が調査員にゴルフコンペの写真を隠し撮りさせ、裁判に持ち込んだ、とかではないでしょうか。
さて、裁判所が自賠責より高い等級を認定して被害者を救済する例は多いですが、このような逆の例は珍しいです。
やはりゴルフをやってたのが裁判官の心証を相当悪くしたのでしょう。
まとめ
取れるお金はしっかり取ればいいですが、症状をあまりに誇張して実情とかけ離れた上の等級を狙うのはやはり無理があります。
そして、他覚的所見をできるだけ準備すること。
そして、一貫性があり、医学的にも説明がつく症状を主張することです。
やはり、交通事故に詳しい弁護士に指揮を執ってもらうことをお勧めします。